2002年8月14日
中日新聞 あす終戦記念日 次世代につなぐ不戦の誓い 〜論説特集
あす15日、57回目の終戦記念日を迎える。戦禍から立ち上がって半世紀余、世界に冠たる経済成長を遂げつつ、誓って不戦の記録を刻み続けてきた。戦後生まれが間もなく還暦に達する新世紀。地球上ではなお、銃火が飛び交っている。大戦をはるかな過去に眺める世代は、不戦の歴史をどう引き継いでいくだろうか。終戦記念日を新世代と共有する道は―。
非戦世代 共通のリズム探そう 飯尾 歩
「米国の良心」とも呼ばれるロックシンガー、ブルース・スプリングスティーンの新作CDは「ザ・ライジング(立ち上がろう)」というタイトルだ。「9・11テロ」以来、初めての作品だと聞いていた。「自由」とか「愛国心」があふれ出すのを予想したのだが…。
♪僕は祈る/主よ、信じる心を与えたまえ
怒りを超えた静けさだった。「戦争の親玉」たちの勇ましいかけ声とは裏腹に、米国の苦悩の深さが伝わった。
米国では今、第二次世界大戦ブームだという。「最後の正しい戦争」に勝利した「最も偉大な英雄たち」が盛んに賞賛されている。
呼応するように、ハリウッド映画は、昨年の「パールハーバー」以来、ベトナム戦争やボスニア紛争などもごちゃまぜにして「大戦もの」を量産し、米国のT正義Uを世界中に振りまいている。
最新のコンピューターグラフィックス技術が「これでもか」と見せつける戦場の悲惨さも、ラストでは「勝者」、すなわち米国の強さと栄光をひときわ印象づけるべく「背景」として引き下がる。リアリズムがドラマに転じ、英雄が廃虚の中から立ち上がる。悲惨と栄光、戦争の光と影、日本の観客はどちらにより強く、心を動かされるのか。
米国の正義もフライドポテトもハンバーガーも、毎日続くといやになる。「戦争」なんて初めから食べたくないが、「正義」ももうおなかいっぱい詰め込んだ。
米国の影響だけにはとどまらない。よくよく周りを見渡せば、日本も「戦場」だらけである。子どもたちはテレビゲームの画面の中で、日々T殺りくUに明け暮れる。女子高生が最終兵器に改造されるマンガがミリオンセラーになる。温暖化は人々の心を焦がし、会社では、Tリストラ爆弾Uが破裂する。家の中では親子が傷つけ合っている。「戦争は悪ではない」的「戦争論」にも疲れてしまう。ヒーローなんかなくていい。「いやし」を求める若い世代の抑制された心の叫びが「非戦」という新たな文化の土壌になった。
名古屋市守山区の会社員広田奈津子さん(23)は、典型的な「非戦世代」だ。「戦争を知らない子どもたち」といわれた戦無派の、そのまた「子どもたち」である。
広田さんは、大学でスペイン語を勉強し、南米大陸を席けんした征服者の歴史に興味を持った。そして今年二月に「環音(わをん)」という市民団体を立ち上げた。途上国、特に東ティモールへ音楽や楽器を贈り、友情を深めようという団体だ。今年五月の独立記念のお祭りにも関西の人気ロックバンド「ソウル・フラワー・モノノケ・サミット」を率いて参加した。ポルトガル、日本、インドネシアの支配を受け、国民の三分の二を失いながら、勝ち取られた独立だった。
広田さんは「音楽の基本は、お母さんの胎内で聞く鼓動なんだと思います。世界共通の価値なんです」と考える。そして「与えるとか、援助するとか、そういう気持ちじゃないんです。ねえねえ、一緒に音楽しましょうよって…」と笑う。
お祭り当日、竹で編まれた手造りの屋根の下、和太鼓や沖縄の民謡なども取り入れた独特のリズムが響き渡った。聴衆の鼓動が重なり合った。
広田さんは祭りの中で、現地の青年に恐る恐る聞いてみた。
「日本人がきらいじゃない?」
青年の両親は、大戦中日本の支配を受けていた。
「過去には決してとらわれない。でなければ新しい国なんかつくれない。今日、お互いに一人ひとりの人間として出会うことができたこと。それが何より大切さ」
抑圧の歴史も独立の栄光も喜怒哀楽も、共通のリズムに溶けていくのを広田さんは見届けた。
非戦世代は、物心ついたころから音楽やインターネットに親しんでいる。国境の壁が低い世代だ。歴史は学ぶが、その「罪と罰」にはあまりこだわらない。お仕着せのT正義Uにももううさんくささを感じている。共通の土壌はすでにできている。
今月末に南アフリカのヨハネスブルグで開かれる「環境・開発サミット」には、世界中から数万人の非戦世代がNGO(非政府組織)として集う。戦争のT種Uになる「貧困」や「環境破壊」の実体を現場に立って見極めようと願っている。
彼ら、そして彼女らに自分自身の「答え」を見つけ、語ってほしい。お互いの小さな違いを乗り越えて共通の価値やリズムを探してほしい。
ブルースは歌っている。
♪君と僕が違っていることは知っている/歩き方も考え方も/でも過去を歴史に追いやるときだ/少なくとも話し合ってみよう
photo=小幡文人(アーネスト)